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photo by HermiG
あらすじ
中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして幼なじみの直美を力づけ、彼女の十五歳の誕生日には、良一が病院の娯楽室でピアノを弾いて祝った。そんなある日、直美が突然良一に言った、「あたしと、心中しない?」。ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長編。
出典:(集英社文庫『いちご同盟』の背表紙より)


主要登場人物

北沢良一
中学三年生でこの物語の主人公。ピアノのレッスンに通っている。
母親はピアノの講師だが、良一がレッスンを受けているのは母親と大学時代に同窓だった別の人。
出版社を経営している父親と私立中学に通う成績優秀な一つ年下の弟がいる。

羽根木徹也
良一と同じ学校で同学年。野球部のエースピッチャーであり四番バッターでもある。

上原直美
徹也の幼馴染、癌で入院中の女の子。名門女子校に籍を置いている。



※以下、ネタバレを含むので『四月は君の嘘』と『いちご同盟』を見ていない方はブラウザバック推奨

『いちご同盟』の影響下にある『四月は君の嘘』

『いちご同盟』をひとことで言い表せば、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『半分の月がのぼる空』のような余命幾許かの少女と主人公との関係を軸にした恋物語(死などのテーマも含まれているが)だと言える。
1990年発刊ということはそれらの作品よりも先駆けて書かれたのが『いちご同盟』という本で、この作品よりも前に病床に伏す少女と少年という物語の雛形になるような作品があったかどうかは気になるところ。

『四月は君の嘘』という作品はもちろんその影響下にあり『いちご同盟』のセリフを作中に出してくることからも同作品へのオマージュだということを強調しているようにみえる。

主人公(有馬公生と北沢良一)がピアノを楽譜通りに弾くことに疑問をもつ点や、三角関係のライバルが運動神経抜群のモテる男(羽根木は野球部、渡はサッカー部)だったり、ヒロインが病を患っている点(上原直美は物語の最初から、宮園かをりは物語の途中から)などの類似点からみても意識していないと考えるほうが難しいだろう。

『四月は君の嘘』と『いちご同盟』の比較

母との和解というテーマの追加
『いちご同盟』では、物語の序盤からヒロインが末期的な状態だったのに対して『四月は君の嘘』のヒロイン宮園かをりはピアニカを吹きながら明るく振る舞えるほどには元気だった。
『いちご同盟』とは違い、ヒロインの病状が深刻でないことで公生が亡くなった母親と和解するための手がかりとなる演奏会の出場へとつながっていく。

明け渡さざるを得ない人間の心理
『いちご同盟』を見ていて、羽根木があっさり北沢良一と上原直美の関係を認めてしまっている点が気になった(もちろん直美の死期が近いという理由と良一の一人称視点が主軸であったために羽根木の内面を深く描けなかったという事情もあるだろうが)。
そう考えると『四月は君の嘘』の澤部椿(さわべつばき)の存在は幼い頃から気のおけない関係であった最愛の人をあっさりと「恋敵」に明け渡さざるを得なかった徹也の内面を、伸ばされた時間軸の中で代弁してくれているような気さえする。

ヒロインを好きになった動機
『いちご同盟』では主人公がヒロインを好きになる動機付けが浅かった(十五歳の少年が会って間もない女性を好きになってしまうのがリアリティーというものなのかもしれないが)。
一方、『四月は君の嘘』では、ヒロイン宮園かをりが主人公有馬公生を演奏会へ誘い、それがきっかけで彼は過去のトラウマと向き合い成長していくという部分が描かれている。そのことが後に彼女への想いと絆を深めていくもとになっている。

・黒猫と下馬の死

物語の終盤(どちらとも病院の帰りに)、『四月は君の嘘』では黒猫が車に轢かれて死に『いちご同盟』では下馬という元クラスメートがバイク事故で死ぬ。これは明らかにヒロインの死を暗示する役割を果たしていて『四月は君の嘘』が『いちご同盟』をなぞっているものだと考えられる。

最後に


『四月は君の嘘』は『いちご同盟』のオマージュ作品といっても言い過ぎではない。だから、如何に『いちご同盟』を換骨奪胎し昇華させるのか、今から最終巻が楽しみだ(『四月は君の嘘』の単行本の最終巻は5月発売らしい)。